【発掘!オススメの日本ワイン】楠わいなりー(信州ワイン)編

そらしど「楠さんにとって一番美しい場所は?」
楠「今いるこの場所が、一番美しい場所です」

そらしど「楠さんにとって一番幸せな時間は?」
楠「今この瞬間、毎日が幸せです」


楠ワイナリーのできたてレアワイン
これは去年の夏、楠わいなりーを訪れた時、楠さんに質問した際のやりとりの一コマ。

そのワイナリー訪問前、とあるカウンターで、楠さんのワイン「ボーリュー」を、ワイン仲間と長野産のブルーチーズと合わせて飲んでいた時、ふとした疑問が沸いてきました。

「”ボーリュー”は”美しい場所”という意味らしいけど、
世界各国を飛び回ってきた楠さんにとって、
”その場所”ははたして何処なのだろう?」


仲間といろいろな意見を交わしてると、カウンターの奥から店員さんも

「私も毎日ワイン造りに追われている中で
どの時間が一番幸せな時か楠さんに聞きたいな」


と、身を乗り出し、いつの間にか楠さん談義に。

今度楠さんに会ったら聞こうねと、そのワインの造り手楠さんについて盛り上がり、ワインが一層美味しく感じられたのでした。

こうしてワインから造り手のことを語れるのは、気軽に会いに行ける場所にワイナリーがある日本ならではの楽しみ。


「夢のワイナリー設立へ」

楠わいなりーは、長野県須坂市のぶどう栽培に適した水はけの良い扇状地の日滝原付近に2011年に設立。20数か所の畑を所有する美しいワイナリーです。

オーナーの楠さんは貿易関係の商社や航空機リース会社でサラリーマンとして20年間海外を飛び回り、その中でワインに魅了され、いつの日かワイナリーを持ちたいと胸に秘めていた思いを実現させたのだそうです。


<夢の実現化がリアルに見えた一冊>

30代後半、仕事に追われる日々の中、

“自分で何かを造りたい”
”自分の判断と責任でなにかをやりたい”


と漠然と考え始めた楠さん。

「芸術的なことに関心が深かったのだけど、自分は絵も描けないし音楽が出来る訳でもない。
何かを生み出したいと言っても、自分に何が出来るのだろうと考えました」


悶々としていた楠さん。ある一冊の本との出会いが、運命を決定付けたのです。

楠ワイナリーの楠さんの人生を変えた一冊 「The Profitability of Investing in a Small Vineyard and Winery」

「自分で畑をつくり、自分で醸造し、自分でそのワインを売る」という内容の書籍。

「海外でワイナリーを訪問しても、広大な土地と大きなタンクがいくつも並んだスケールの大きな工場ばかりで、その時は全くピンとこなかったのですが、この本と出会った時に、個人でワイナリーを持つことは実現可能だと思えてきたのです」

田舎暮らし、モノ造り、芸術性、科学分野…
自分の中に求めるものを考えた時、自分のやりたいこと、自分の理想、
自分の得意分野、自分を作り上げてきた要素すべてがそこにあったのだと。


<背中を押された父の存在>

帰郷のきっかけは病に倒れた父親の介護。

長いサラリーマン生活に終止符を打ち、帰郷。
余命宣告を受けた父の傍で最後の時間を共に過ごしつつ、故郷でワイナリーを設立するための活動を少しずつ進めます。

周辺のワイナリーやぶどう農家で学びを続ける中、父を送り出した後、更に本格的にワインの勉強をするため、44歳でオーストラリアのワイン醸造の名門アデレード大学大学院に入学。

この時の楠さんはまずは大学に直接行ってワインメイキングの教授たちと話をさせてもらったとのこと。

そして国の産業としてアカデミックに教えてくれる教育方針に納得し、ワインづくりにすべてを賭けたそう。

「人生であれだけ勉強した日々はないほど勉強しました。
今ならとても無理でしょう」


2004年に帰国後、日滝原(他のワイナリーもぶどう畑を持つ、高品質なワインを生み出すぶどう栽培に適した地域)でメルローとシャルドネの栽培からスタート。
周辺のワイナリーで委託醸造し2006年初ヴィンテージをリリースします。

2009年のシャルドネは長野県原産地呼称管理制度の官能審査会において審査員奨励賞に選ばれるなど注目を受け、上質なワインの出来に出資者も賛同し、ワイナリー設立の資本金も順調に集め、2011年に醸造免許を取得し念願の自身のワイナリーを設立。

現在は約5ヘクタールの自社畑で10数種類ほどのぶどうを栽培。
年間約3万本をリリースし、その上質な品質と味わいに高い評価を得ています。

楠わいなりーの楠さん


<20年後の自分を思った…>

「まだサラリーマンだった頃、ワイナリーをやりたいと思った自分に対し、

“本当にワイナリーをやりたいのか?
本当は逃げたいだけなのではないのか?”


と、自問自答を繰り返しました。

その時に20年後のことを考えたのです。
もし20年後、日本ワインが日本で盛んに飲まれる時代になっていた時、

“実は自分も20年前、ワイナリーやろうと思っていたんだよね”

なんて言いたくないな、と。

そんな後悔する生き方だけはしたくなかったので、残りの人生をこれに賭けたいと思ったのです。」


ワイナリーを作る決心をしたときのことを話す楠わいなりーの楠さん
この言葉を聞いた時、私は去年の夏にこのワイナリーを訪れた際、楠さんに質問した冒頭の言葉を思い出し、思わず胸が熱くなりました。


そ「楠さんにとって一番美しい場所は?」
楠「今いるこの場所が、一番美しい場所です」

そ「楠さんにとって一番幸せな時間は?」
楠「今この瞬間、毎日が幸せです」



今、楠さんが立っているその場所こそが世界の何処より楠さんが夢に見た美しい場所で、
今、楠さんが生きてるこの瞬間こそが、なにより楠さんが夢に見た時間。

ブドウの木を世話する楠わいなりーの楠さん
なんの迷いも躊躇もせずに即答してくれたあの時の言葉は、かっこつけでもキザなセリフでもなんでもない、本当に心の底から出た答えだったのです。

再びこのワイナリーに訪れて、より一層楠さんと話せたことを心から嬉しく思った瞬間でした。


<良い葡萄が良いワインを生み出す>

楠ワイナリーでは農薬や化学肥料の使用量を最低限に抑え、除草剤を使用しない草生栽培という方法で、ぶどうを出来るだけ自然に近い状態で育てています。


「海外と日本では地質も気候も大きく異なる為、この土地に合った栽培方法を考えながら試行錯誤をする日々です。

まずは光合成を沢山してもらうためにはキャノピーマネジメント(「キャノピー=葉っぱ」の管理)をどうすればいいか考えています。

一枚目の表の葉っぱが受けている光が100だとしたら、二枚目は5、三枚目はほとんど光は当たりません。
しかし日は当たらなくともそれらの葉っぱも呼吸をしているのです」


呼吸が多いほどぶどうは無駄なエネルギーを使うため、実に養分を多く蓄えるには無駄な呼吸が少ない方が良いとのこと。

温度が高くなるほど呼吸は激しくなるそうで、結果、気温が低い方がいいぶどうが造れるのだそう。

そういった意味でも寒暖差だけではなく、最低気温が低い長野は他のエリアと比べてぶどうの栽培に適していて、色ノリがいい凝縮感のある味わい深いぶどうが出来るのだそうです。

楠わいなりーは最近では日照量を検証した結果、良いとされてきた垣根栽培の他に棚栽培も増やしています。

「手間はかかりますがその方がこの土地では適していると分かってきたので」

葡萄の育て方について話す楠わいなりーの楠さん

<日本の生活に寄り添う優しい味わいのワイン>

そのようにその土地の特徴や長所を最大限に生かしたワイン造りをしている楠さんが求めているのは、日本の風土に適したぶどう造りをして、日本の食事に合うワインを造ること。

「力強さやボリューム感を求める造りではなく、
普段の日本の食事にも合わせられるようなワインを目指しています」


同じ長野エリアでも、しっかりとした味わいを前面に出すワイナリーも多い中、楠さんのワインはほっと安らぐような優しさに包まれていて、奥の方に芯がしっかりと存在し心地よい余韻が広がる味わいです。

まさに楠さんの実直で穏やかな優しいお人柄がそのまま反映されているようなワインたちばかり。

そしてそのワインは皆クリーンな造りで、品質管理や衛生管理の徹底した管理が伺えます。

楠わいなりーの目指す日本ワイン
自分の信念をしっかりと持ち、細かなことにも妥協せず、時間や手間暇を惜しみなく費やすことがワイン造りの中ではとても大切なこと。

しかし、それだけでは…という楠さん。

「こだわりを持って作っていても
こだわりを理解して飲む人は少ないのだから、
けしてひとりよがりになってはいけないのだと。

自分を満足させることは悪いことではないけれど、
自己満足で終わってはいけません。
これからはもっと産業としてしっかりと
ワインを造って届けていきたいと思っています」



そして私も深く頷きます。

そう語る楠さんの邁進を、これからもずっと追いかけていきたいと。


<楠わいなりーからのおススメワイン>

さて、今回試飲させていただいたワインは皆、そんな楠さんのお人柄そのものを映し出すような日本の繊細な食事に寄り添う優しさと情熱に溢れた実直なワインたち。

楠わいなりーで試飲した日本ワインたち
その中でも皆さんにおススメするために選んだワインは、日本ワインはほとんど飲んだことがないという酒蔵.com店長の日下部さんと全く揉めずに迷わず一致。


まずは今回の記事にも登場した赤ワイン
「ボーリュー2012」

当たり年と言われる12年の凝縮感の溢れるメルローと、繊細な味わいのカベルネフランを半分ずつブレンドした、ふんわりと優しい余韻が広がる一本です。

思わず自分の一番美しいと思う場所を思い浮かべ涙ぐんでしまうかも?

私はこちらを同じく長野のチーズ工房アトリエ・ド・フロマージュさんのブルーチーズと共に飲んだ時、華が舞うような衝撃を受けそれ以来虜になりました。


そして二本目の白ワインは
「リースリング2015」

華やかな香りが広がり、ふくよかな後味と酸のバランスが絶妙なリースリング。こんなに飲み応えのある奥深い味わいのリースリングは日本でもなかなかないかもしれません。

普段ワインを飲まれない方でも、この分かり易い優美な香りと味わいのふくよかさは印象的で、好まれる方が多いかと。
日下部さんも一番のお気に入り。


そして今回の目玉、蔵出し非売品60本限定販売
「カベルネ・氷結ワイン2014」

滅多にお目にかかれないカベルネ・ソーヴィニヨンのアイスワインは、今回ハーフボトルで200本しか造っていない中、酒蔵.comで60本のみ限定発売させていただくことに。

極甘の至福の味わいの中に、カベルネらしい酸がこっそり引き締める、なんとも贅沢な希少な一本。

これは絶対手に入れておきたいワインですね。

楠わいなりーのワイン詳細情報