日本人のための日本のワインを ~山梨マルスワイナリー

執筆者紹介。日本ワインに首ったけを運営中のそらしどと申します

執筆者:そらしど
ある日、ワインの美味しさに衝撃を受け、やがて日本のワイナリーを巡るまでになる。日本ワインの魅力と美味しさを伝えるためにブログ『日本ワインに首ったけ』を運営中。

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1月のある日、甲府で大きな甲州のワインイベントが盛大に行われた。

山梨のワイナリーの重鎮たちが揃い甲州を振舞うその会で、たまたま相席となった女性が、キラキラとした瞳で熱くこう語る。

「私、マルスで働いているのがとても楽しいんです。
マルスで仕事が出来て毎日幸せです!」


そのマルス、偶然にも翌日訪問を予定していたワイナリーだった。

山梨のマルスウィスキー入口の看板
山梨マルスワイナリーは鹿児島の焼酎会社本坊酒造が1960年、ワイン造りの拠点として山梨県笛吹市石和町に創設。駅から歩ける温泉街の観光ワイナリーとしての役割も担っているものの、実際は温泉が湧く以前にワイナリーが建っていた。

大きな観光バスが次々と乗り付けるワイナリーの見学順路には、壁画や写真資料等、様々なワインにまつわる展示物が充実し、壁に樽が組み込まれた試飲コーナー等、気軽にワインを楽しめる工夫が施され、人気のスポットとなっている。

また、焼酎会社を親会社に持つマルス特有の、焼酎の仕込みに使った甕を用いた甕仕込みワインやブランデーを加えたポートワインタイプの「ヴィニョ・デ・マルス」を造っていることから、ズラリと甕が展示されている様はこのワイナリー特色ともいえる。

マルスワイン醸造責任者兼工場長田澤さん

(ずらりと並ぶ甕の前で…醸造責任者兼工場長田澤さん)


その「ヴィニョ・デ・マルス」は1940年代から各ヴィンテージが揃っていて(91年からは100%国産原料)その年のニュース記事と共に紹介されており、ここを訪れる多くの人が思わず足を止め自身の生まれ年をチェックする。それぞれ売店にて購入可能となればおのずとテンションもあがるというもの。

このように訪れる人々がワインと親しむ工夫を凝らす観光ワイナリーとしての顔と共に、マルスはワインコンクールの常連の実力派ワイナリーとしても定評がある。

中でもそれを実感出来るのが契約栽培農家の方々の紹介コーナー。

マルスワインではワイナリーで契約栽培農家の方々が紹介されている
(各地区の契約栽培農家の方々を大きなパネルで紹介)


年間通算90万本、そのうち45万本が純国産原料の日本ワインを生産する大規模なマルスワイナリーには、自社農園以外にも多くの契約栽培農家が存在する。

穂坂地区、白根地区、牧丘地区、石和地区、御坂地区とそれぞれの区画ごとに契約栽培農家の方々が紹介され、そのひとつひとつとしっかり連携を組み信頼関係を築いているのが伺える。

それは輝かしい受賞メダルの展示より、このワイナリーの真意が見えてくる瞬間でもあった。

マルスワインの厳選ワイン一覧


そしてトップレンジを生み出すのが自社農園「穂坂日之城農場」。

「最高の条件を求めて…自社畑穂坂日之城農場」

マルスワインの穂坂日之城農場
(日当たりの良い南東向き斜面の穂坂日之城農場)


マルスワイナリーの自社畑、穂坂日之城農園はワイナリー設立40周年を記念して、2000年に茅ヶ岳山麓の韮崎市穂坂町三之蔵日之城に開設された。

2.2ヘクタールの農園は、日照時間日本一と言われるこの地域でも最も日当たりの良い南東向きの14~5度の斜面で、標高は500メートルと温暖さもあり、ぶどう栽培には最適の土地である。

地質は粘土質の埴壌土で、開拓の際にはワイナリーの従業員が自らユンボに乗り、1メートルほど土を掘り起こし排水用のパイプを埋め、小石を引き詰め土壌改良に努めた。

栽培品種はシャルドネ、ヴィオニエ、カベルネソーヴィニヨン、カベルネフラン、メルロー、シラー、プティヴェルドなどのワイン専用品種で、全区画にグレープガード方式(ぶどうの実の部分をビニールの傘で覆う方式)で雨よけ対策を施している。

マルスワインの畑では雨よけにグレープガードも設置されている
(フルーツラインには雨よけ対策にグレープガードが施される)


更に収穫1ヶ月前には地面に水はけのよいシートを敷き詰め、果実が余分な水を吸い込まないように管理し、区画ごとの徹底した収穫制限も行っている。

マルスワインでは果実の水分調整をするために地面にシートをはる
(収穫一ヶ月前にはシートを敷き詰めて果実の水分調節)



「健全第一、むしろ葉っぱを育てるという気持ちで挑む」

2000年の開設から穂坂日之城農場に関わる栽培責任者の河野勝一さんはこう語る。
マルスワインの栽培責任者河野勝一さん

「葉っぱが健全でなければ良い果実はけして出来ない。だからむしろ葉っぱを育てるという気持ちで挑んでいるんです。」

健全な葉っぱを育てるには、菌の残留を減らすため消毒はしっかり行う。

「今年はベト病が多く花の咲く時期にきたけれど、しっかり対策を打ったのでうまく治まってくれた。毎年この見極めが肝心」

2000年に一番はじめに植えたのはカベルネソーヴィニヨンとメルロー。

通常ぶどうをワインにするには三年目からが適していると言われているが、三年目のカベルネ&メルロー2003が2005年国産ワインコンクールにて山梨県産の赤品種として初の金賞に輝いたと同時に、二年目のぶどうを使った2002年ヴィンテージも銀賞を受賞した。
まさに畑の潜在能力を感じられる嬉しい受賞であった。

マルスワインのカベルネ・ソーヴィニヨン中心ブレンド穂坂三之蔵ルージュ


更に穂坂日之城ヴィオニエ2005が洞爺湖サミットに起用され、
白品種シャルドネも2012年・2013年の同コンクールで
金賞部門最高金賞受賞し年々評価が高まる中、
2016年の今年、穂坂日之城シリーズは赤白含め五年連続の金賞受賞を果たした。

2016年国際ワインコンクール金賞受賞


「2000年当初、これが良いと思い始めたことも、作業効率が悪かったり、思ったより結果が出なかったりと、経験を重ねるごとに臨機応変に変えて行きました。その結果がうまく表れてきたのだろうと」

今でこそワインコンクールの上位入賞常連のマルスワイナリーだが、その背景にはこの穂坂日之城農場での絶え間ない挑戦があったのだ。

河野さんはマルスワイナリーに入社後、ワイナリーの中で醸造を含むいろんな部門を経験し、しばらくはワイナリー近くの小さな自社畑で栽培を行いこの農園を任された。全体像が見えているので醸造サイド、運営サイドとの連携も的確だ。

「収穫のタイミングによって味わいも大きく左右するので収穫期は気が抜けません。しかしどうしても醸造の流れで収穫が決まってしまう部分もあるので、そのタイミングをうまく話し合って決めていかなければなりません。そのためには密な連携が必要です」

健全で上質なぶどうを育て、ベストな状態で醸造チームに引き渡すことこそ栽培家の使命である。

マルスワインの畑を説明してくれている栽培責任者河野勝一さん
(手塩にかけたぶどうたちを温かい目で見守る河野さん)


その河野さんと信頼し合い、ぶどうを引き継ぎワインにするのはこの人。


「”おばあちゃんのぶどう液”から”狙いの田澤”へ」

醸造責任者兼工場長、田澤長巳さんは山梨県甲府市生まれ。

マルスワインの醸造責任者兼工場長田澤長巳さん
(栽培畑を解説する醸造責任者兼工場長田澤長巳さん)


ワインに注目が薄かった当時は、大手ワイナリーの醸造家の多くは会社の方針などでその道に進んだ方も少なくはない中、田澤さんは初めから醸造家の道を目指してマルスに入社した。

ぶどう栽培が盛んなこの地域では、当たり前のようにぶどうの果汁(ぶどう液)を飲まれていたそうで、田澤さんも子供の頃おばあちゃんからぶどう液を作ってもらって飲むのが日常だったとのこと。

幼き頃からぶどうに親しんでいた田澤さんにとって、地域のぶどうを用いてワインを造る醸造家になることは自然な流れだったという。

そんなマルスの中でも注目したいのがスパークリング・ワイン。

2016年日本ワインコンクールにおいても四種のスパークリング・ワインが入賞し、甲州やデラウェアなどは狙った香りを引き出すために”あえての瓶内一次発酵”を行うという。

勿論、より本格的なスパークリング・ワインが造れるという瓶内二次発酵を行う設備がない訳ではない。

「瓶内一次でシャンパーニュのような細かい泡を演出したかった」

と語る田澤さんは、試行錯誤を繰り返し三年前ようやく理想的な泡を生み出せる環境を手に入れた。

マルスワインのスパークリングワイン穂坂シャルドネ&甲州スパークリングワイン


「ワインはいつもこういう感じ…っていうのが頭にあって、
そこに向かってどうアプローチしていくか狙いを定めて考えるんです」


まさに化学と感性の融合、”狙いの田澤”ここにあり。

マルスワインの醸造責任者兼工場長田澤長巳さん
(“こういう感じに狙いを定めて”…と思いを語る田澤さん)


また、この田澤さんが率いる醸造チームは抜群のチームワークに定評がある。

「マルスワイナリー若き醸造チームたち」

マルスワイナリーの若手醸造家たち
(画面左から田口さん、茂手木さん、安藤さん、田澤さん)


積極的に責任のある仕事を与え、若手を育てる田澤さんへの現場からの信頼は非常に厚く、皆活き活きとそれぞれの役割を担っている。

「田澤さんは自分たちの意見にも耳を傾けてくださるので、そういう意味でもマルスは非常に風通しの良い環境だと思います」

と、穏やかに語るのはリーダー的存在の醸造主任の茂手木大輔さん。

マルスワインの醸造主任の茂手木さん

冒頭のマルスで働く女性のセリフ

「私、マルスで働いているのがとても楽しいんです。
マルスで仕事が出来て毎日幸せです!」


という言葉がここでも思い出される。

マルスで働く人々は醸造に携わるメンバーだけではなく、売店やラベル貼り、資材担当の裏方の方々までもが自身の仕事に誇りを持ち、ここで働くことが楽しいと微笑む。

以前、甲府常磐ホテルで行われたマルスのメーカーズディナーの席でこのようなエピソードがあった。
優しすぎると感じられた甲州のワインと、優しい味わいの上品な出汁を合わせた瞬間、驚くほどの芳醇な花の香りを生み出し、参加者たちが次々にその味わいに歓喜をあげた。

マルスワインは和食に合うワインを目指す
(マルスの彩紅藤甲州と上品な出汁のおすましは最高のマリアージュ)


「あれはまさに日本の料理を引き立てるために出汁に合うように造ったワインです。カベルネやメルローなども力強さを求めるよりも、日本の食事に合うように繊細な味わいに仕上げるように心がけています」

と、そのワインの醸造を担当した茂手木さんは、狙い通りとばかりに熱く語ってくれた。

マルスワインは日本の食事に合うワインを目指す


“日本人のための日本のワインを”をモットーに、日本人の味覚に寄り添うワインを造り続けるマルスワイナリー。

マルスワインのコンセプト
(甲府常磐ホテルでのマルスワイナリーメーカーズディナーにて)


それはワイナリーに働く方々の穏やかな優しさが重なり合い、それぞれに持ち合わせた奥にある芯の強さが、お互いを引き立て合うのにとても良く似ている。

人と人とのふれあいにより更に魅力が溢れるマルス…

それこそがマルスのワインの味わいそのもの。

穂坂日之城農場のぶどう
(今年もたわわに実る穂坂日之城農場のぶどうたち)


来年の秋、マルスワイナリーは自社農園にほど近い穂坂地区に新しいワイナリーを開設し、新たなステージに向かって歩き出す。

環境も大きく変化と共に、益々進化するであろうマルスワイナリー。

これからも絶対マルスから目が離せない。

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